このページの要点
- 責任の条項は規約の1か所にだけ書き、申込書は「いつ・何を・いくらで」を記録する書面にする。
- 個別書面が規約より事業者の責任を軽くする場合は規約が優先する、という片面的な優先の条を置く。
- 訪問型は準委任(民法656条)。結果を保証しないこと、病気の発見・診断の義務を負わないことを書く。
- 散歩代行は用具・鑑札・頭数を、お泊りは使ってよい設備・水道光熱費・第三者の立入りを、特則で決める。
規約と申込書の役割を分ける
ペットシッターの書類は、利用規約(全利用者に共通するルール)と申込書(利用者ごとの内容)、それにカルテ(事前打合せの記録)の三つで組み立てるのが基本です。事務所がレビューした書類では、申込書に賠償の上限や免責の条項が書かれ、「申込書に書いていない事項は規約による」とされていたため、規約を消費者契約法に合わせて直しても、申込書の古い上限が優先して生き残る、という構造になっていました。
事務所の改訂例:申込書と規約の関係
申込書の中身
ポイント責任の条項を二つの書類に分けて書くと、改定のたびに片方だけ古くなります。申込書は「いつ・何を・いくらで」を残す書類にし、責任の条項は規約の1か所にだけ書きます。
書類の優先順位も一つの条文で決めます。カルテの個別の取決め(ごはんの量、散歩のコース、使ってよい部屋)は規約より細かいので優先させたい。一方で、スタッフがカルテに「脱走しても責任を負いません」と書いてしまうと、規約で整えた責任の設計が崩れます。そこで、次のような「片面的な優先」の書き方をします。
本規約と、料金表、申込書、カルテその他の個別の書面(以下「個別書面」といいます。)の内容が異なるときは、個別書面の定めが優先します。
前項にかかわらず、個別書面の定めが、本規約に定める当社の責任を軽減し、又はお客様の義務を加重するものであるときは、本規約の定めが優先します。
現場で作るカルテの記載によって事業者の責任が下がることはない、という形にしておくと、規約の責任の設計が守られます。
契約の性質:訪問型は準委任
飼い主の家に出向いて、一定の時間、動物の世話をする約束は、仕事の完成ではなく事務の処理を約束する準委任(民法656条)と整理するのが素直です。事務所が手がけた規約では、「当社がお客様宅において世話その他の事務を行うことを内容とする準委任契約」と書き、「登録上の取扱業種が保管であることは行政上の区分を示すもので、契約の性質に影響しない」と添えました。「保管」という言葉から、動物を預かる寄託の契約と読まれるのを避けるためです。自分の施設で動物を預かるペットホテルは、動物の占有を移して保管するので寄託の性質が強くなります(ペットホテルの利用規約)。
準委任として組む場合は、善良な管理者の注意をもって世話をすること、健康状態の改善やしつけの成果を保証しないこと、獣医療やトリミングは提供しないこと、異常に気づいたときは緊急時の対応をとるが病気を発見し診断する義務は負わないことを書いておきます。最後の一文は、「シッターが病気に気づかなかった」という主張に備えるためのものです。
作業の範囲と「やらないこと」
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 含まれるもの | 給餌・給水、トイレの処理と清掃、遊びと運動、健康状態と行動の観察、簡易な介助、散歩代行、事前打合せで合意した事項、記録と報告 |
| 含まれないもの | 獣医療その他資格を要する行為、注射・点滴など身体への侵襲を伴う行為、専門的なハウスクリーニング、調理を伴う食事の用意、子どもの送迎などペット以外の人への対応、カルテに定めのない事項 |
| 触れない物 | 現金・通帳・印章・カードなどの金品、貴金属・美術品、書類・写真・記録媒体などの私的な情報、これらに準ずる物(飼い主の指示があれば必要な範囲で触れ、記録・報告する) |
触れない物を具体的に並べるのは、責任の範囲を明確にするためだけではありません。「そもそも金品には触れない運用である」ことを利用者に伝え、金品がなくなったという申出が起きにくくする意味もあります。金品の紛失は事実の確認が難しく、話合いが長引きやすいからです。
提供時間と「早く終わった場合」
猫が人を怖がって隠れてしまうなど、依頼された世話を終えたあとに、予定の時間より早く退出する方が動物のためになる場面があります。規約では、提供時間を料金表の区分から選ぶこと、依頼された世話を提供したあとは時間の経過前に退出することがあり、その場合も料金を減額しないこと、退出した理由を報告することを書きます。退出の条件を「依頼された給餌・給水その他の世話を提供した後」に限ると、利用者から見ても合理的に読めます。
スタッフに業務委託で任せる場合は、スタッフとの契約での滞在の扱い(連続して滞在するのか、世話を終えたら退出してよいのか)を、利用規約と同じにしておきます。規約では早く退出できるのに、スタッフとの契約では連続滞在が義務になっていると、規約どおりに早く退出したスタッフが契約違反と言われる、という食い違いが起きます。
散歩代行とお泊りの特則
- 用具の確認首輪・ハーネス・リードの破損や緩みがないことを、飼い主が事前に確認する
- 標識犬に鑑札・注射済票・迷子札を着けておく
- 用具の交換飼い主が用意したリード・ハーネスを使い、承諾なく交換しない。破損など安全上必要なときはこの限りでなく、理由を報告する
- 天候悪天候時の対応は事前打合せによる。災害など危険と判断したときは散歩の全部又は一部を中止できる
- 同時に連れ出す頭数犬の大きさで分けた上限を決め、超える場合は複数回に分ける
- 公衆衛生排せつ物の回収と、排せつした跡への水かけ
お泊り(宿泊を伴う世話)は、スタッフが飼い主の家で夜を過ごすため、家の設備の使い方を決めておく必要があります。使ってよい設備(台所・浴室・洗面・空調など)を列挙し、それ以外は使わないこと、水道光熱費は飼い主の負担とすること、スタッフ以外の人を立ち入らせないこと、喫煙しないこと、世話に必要な範囲を超えて家を離れないことを書きます。カルテに「使用を認める設備」のチェック欄を作ると、規約と運用が一致します。
申込みを受けない場合と、途中で中止する場合を分ける
依頼者の原案でよく見かけるのが、申込みを断る事由と、契約した後に中止する事由が一つの条に混在し、最後に「当店が承れないと判断した場合」という包括的な一文が置かれている形です。申込みを断るのは契約の自由の範囲ですが、すでに成立した契約をこの一文で解除しようとすると、消費者契約法10条の問題になります。
当社は、次の各号のいずれかに該当する場合は、お申込みをお受けしないことがあります。(1)お預かりペットが感染症(外部寄生虫によるものを含みます。)にかかり、又はそのおそれがあるとき(2)予防接種その他当社が定める予防措置が講じられていないとき(3)お預かりペットの攻撃性が著しく、安全な世話が困難と認められるとき(4)身体への侵襲を伴う行為その他本サービスの範囲に含まれない依頼であるとき(5)前各号に準ずる合理的な理由があるとき
前項各号に該当することが本契約の成立後に判明したときは、当社は、本サービスを中止し、又は本契約を解除することができます。この場合の料金の取扱いは、キャンセル手数料の定めの例によります。
「サービスの中止・中断」(不可抗力、スタッフの急病で代わりも手配できない場合など)は別の条にし、提供できなかった部分の料金を返すことを書きます。
スタッフを守る条項と、近隣への配慮
飼い主や同居人がスタッフに暴言・暴力・性的な言動・人格を否定する言動・合理的な理由のない過大な要求をしたときは、直ちに中止して退去でき、以後の申込みを断れることを規約に書いておきます。すでに受け取った料金を返さないとする場合も、「平均的な損害を超える部分を除く」と添えておくと、条項の有効性を保てます。
留守の家に出入りする仕事なので、近隣から「どなたですか」と尋ねられることもあります。用件だけを確認し、ペットシッターであることや家の人が不在であることは伝えない、という運用を決めておくと、防犯の面で安心です(写真・個人情報と留守の情報)。鳴き声やにおいなど飼育そのものに起因する近隣とのもめごとは飼い主が解決すること、事業者の責めに帰すべき事由による場合はこの限りでないことも書いておきます。
ご相談の場面から:利用規約のご相談
規約にシステム障害やサーバーの保守の条項が入っています。消してもよいですか?
ペットシッティングと関係のない条項は、整理して構いません。ただし、Webサイトの一時停止など実際に起こり得る事柄は、不可抗力の条項やWebサイトの条項に分けて残します。汎用のひな形から持ち込んだ条項がそのまま残っていると、利用者に「自社で作った規約ではない」と受け取られ、規約全体の信頼が落ちます。
「担当者」「アシスタント」「代行者」「スタッフ」という言葉が混在しています。
誰の行為に誰が責任を負うかが読めなくなるので、定義の条で「スタッフ」「代行者」を定義し、本文の言葉を一つにそろえます。代行者や同行者の行為についても事業者が責任を負うことを書いておくと、利用者から見て窓口が一つになります。
投薬はどこまで受けられるか:獣医師法17条との線引き
獣医師でなければ、犬・猫などの飼育動物の診療を業務としてはなりません(獣医師法17条)。糖尿病の猫のインスリン、腎臓病の犬の内服薬、目薬など、投薬を伴う世話の依頼は現実に多くあります。どこからが診療に当たるのかを規約に書いておかないと、現場の判断がぶれます。
事務所の改訂例:投薬・医療行為の条項
書き方の矛盾
ポイント注射ができないことは読めても、飲み薬や目薬を受けられるかが読めない書き方でした。獣医師が処方した薬を、飼い主の指示どおりに与えることは、通常は診療に当たらないという整理のもとで、受けられる投薬と受けられない行為を列挙しました。
インスリンの注射のように、飼い主自身は日常的に行っている行為でも、シッターが業として行うことは受けない、と規約に明記しておきます。「飼い主がいつもやっているから」という理由で現場の判断で引き受けると、事業として診療の制限に触れるおそれと、事故のときの責任の両方を抱えることになります。投薬の内容はカルテの投薬の欄に記録し、薬の写真を残しておくと、取り違えの防止にもなります(カルテの記録事項)。
多頭の世話:同じ世帯か、別の世帯か
「多頭飼いも歓迎」と宣伝するなら、多頭の世話の条を置きます。事務所が手がけた規約では、①複数のペットを同時に世話できること(料金は頭数で加算しない)、②性格・運動量・相性・健康状態から安全を確保できないと判断したときは、頭数を制限し、又は受けないことができ、その理由を説明すること、③散歩で同時に連れ出す頭数に、犬の大きさで分けた上限を置き、超える依頼は回数を分けること、を書きました。
依頼者の原案で見直しが必要だったのは、多頭のときのペット同士のけんかを「各お客様間で協議して個別に解決していただきます」としていた点です。同じ世帯の多頭なら飼い主は一人なので、この一文は空振りします。別の世帯のペットを同時に扱うなら、事業者自身の管理の責任が正面から問われます。しかも、加入していた保険は「預かった動物同士のけんか」を補償の対象外としていました。別の世帯の動物を同時に預かるかどうかは、規約の書き方より先に、事業の方針として決めておく事柄です(賠償と保険)。
よくあるご質問
ペットシッターの利用規約に必ず入れる条項は何ですか?
事業者の表示と登録の内容、契約の成立と書類の優先関係、契約の性質、作業の範囲と行わないこと、提供時間、申込みを受けない場合と中止の場合、予防接種と告知義務、緊急時の対応、鍵の取扱い、料金とキャンセル、責任と保険、写真の取扱い、個人情報、規約の変更です。
申込書と規約の両方に賠償の条項を書いた方が安心ですか?
逆です。どちらか一方(通常は規約)にだけ書き、申込書は「いつ・何を・いくらで」を記録する書面にします。二重に書くと改定のたびに食い違いが生じ、古い方が優先される構造になることがあります。
予定より早く世話が終わったら、帰ってもよいですか?
依頼された世話を提供したあとは時間の経過前に退出することがあり、その場合も料金は減額しない、と規約に書く例があります。退出の理由を報告する運用とセットにし、スタッフとの契約の滞在の扱いも同じにしておきます。
お泊りシッティングで家の設備を使ってもよいですか?
事前に使用を認めてもらった設備に限る、と規約に書き、カルテのチェック欄で確認するのが安全です。水道光熱費の負担、第三者の立入りの禁止、外出の範囲もあわせて決めておきます。
カウンセリングで口頭で約束したことは、契約になりますか?
規約に「事前打合せで定めた事項は、カルテなどの書面・電磁的記録に記録された限度で効力を持つ」と書き、カルテに残す運用にしておくと、後日の言った・言わないを減らせます。
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本ページは一般的な情報提供です。登録の手続や基準の運用は、事業所の所在地の都道府県・指定都市によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたペットシッター・ペットのお世話サービスの利用規約、申込書、同意書、スタッフとの業務委託契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / 環境省 動物の愛護と適切な管理 / 消費者庁 / 特定商取引法ガイド