事故・病気・死亡・脱走への備え

飼い主が旅行中で連絡がつかない場面は、シッターを頼む場面そのものです。その場面のルールを、あらかじめ決めておきます。

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脱走は最も典型的な事故なのに、保険の対象外のことがあり、規約の免責も効かない可能性が高い。法的な責任だけが残る領域です。

このページの要点

  • 予防接種は「原則として」で終わらせず、証明の提出、例外の手続、感染症を隠した場合の効果まで書く。
  • 病気の未申告には上限ではなく、飼い主の告知の義務と違反の効果で対応する。
  • 急病時の連絡の順番、立替えの上限、手術・延命・安楽死の意向を事前に確認し、カルテに記録する。
  • 散歩中の咬みつき事故では、動物を管理する者として責任を問われ得る(民法718条)。人の身体の損害に上限は置かない。

実務で最も揉めるのは「何かあったとき」の空白

ペットシッターの規約で、実務上最も紛争になりやすいのは、動物の具合が悪くなったとき、けがをしたとき、亡くなったとき、逃げ出したときの扱いです。事務所がレビューした規約では、緊急時に動物病院を受診させる旨はあっても、受診を判断する基準、連絡の順番、治療費の立替えの上限、手術や延命措置の判断、亡くなったときの対応が、どれも書かれていない例がありました。しかも緊急時の対応が「営業時間」の条の中に埋もれ、欠番の条もありました。飼い主が旅行中で連絡がつかない場面は、シッターを頼む場面そのものです。その場面のルールを、あらかじめ決めておきます。

予防接種と感染症:「原則として」で終わらせない

事務所の改訂例:予防接種の条件

申込みの条件

改訂前犬は狂犬病予防接種と混合ワクチン、猫はウイルスチェック等を、原則として申込みの条件とします。感染症を隠して申し込んだ場合は、損害賠償金を請求させていただく場合がございます。(依頼者原案)
改訂後犬は狂犬病予防法に基づく登録と予防注射、鑑札と注射済票の装着、過去1年以内の混合ワクチンの接種を、猫は混合ワクチンの接種と所定の検査を、申込みの条件とします。接種を証する書面の写しを事前打合せで提出していただきます。獣医師の判断で接種が適当でないなどの事情があるときは書面で申し出ていただき、当社が個別に判断します。感染症のおそれがあるときは事前に診断書を提出していただき、罹患を隠して申し込んだ場合は、当社・他の利用者・他の動物に生じた損害を賠償していただきます。

ポイント「原則として」の例外を認めたときの責任の分担がないと、例外を認めたこと自体が事業者の落ち度とされかねません。例外を認める手続と、その事情に起因する損害の扱いを決めます。「請求させていただく場合がございます」という書き方は権利の予告にすぎないので、告知の義務と違反の効果として書き直します。

犬・猫以外の動物は、事前打合せで必要な予防措置を協議して決める、としておきます。接種証明は初回に写しを受け取り、有効期限が切れる前に更新分を出してもらう運用にします。

病気を隠されていたら:上限ではなく告知の義務で

「カウンセリングで病気を申告されず、それが原因で亡くなった場合に、賠償の上限を決めておきたい」というご相談をいただくことがあります。しかし、事業者に落ち度がなければ、そもそも賠償の責任は生じません。むしろ、病気を告げなかった飼い主の側の責任が問われる場面です。ここに上限を書くと「上限までは払う」と読まれ、かえって不利になります。上限ではなく、飼い主に次の事項を「真実かつ正確であること」として表明してもらう条を置くのが正攻法です。

飼い主に表明してもらう事項(例)
  • 契約の権限飼育者であるか、飼育者から委託を受けていて契約する権限があること
  • 健康と行動健康状態・持病・服薬・アレルギー・咬傷歴・攻撃性・分離不安など、安全に影響し得る事項を正確に漏れなく告げたこと
  • 感染症と予防接種感染症にかかっていないこと、予防接種を受けていること
  • 住居合鍵で正常に施解錠できること、立入りについて権限があり賃貸借契約や管理規約に反しないこと、同居人が同意していること
  • 危険物と貴重品危険な設備・薬品・器具・貴重品の場所と扱いを申告したこと
  • 緊急連絡先緊急連絡先を届け出て、連絡がつく状態にしておくこと

表明に反していた場合は、中止・解除ができ、生じた損害の賠償を求められる、と効果まで書きます。ペットの飼育が禁止された賃貸物件での世話は、管理会社とのトラブルにつながるので、住居の権限の表明は意外と重要です。

急病のとき:連絡の順番と立替えの上限

異常に気づいたときの対応(規約の例)

  1. 飼い主に連絡異常を認めたら直ちに飼い主に知らせ、指示に従う
  2. 緊急連絡先に連絡飼い主に連絡がつかなければ、届け出のあった緊急連絡先に連絡する
  3. 受診それでも連絡がつかなければ、事業者の判断で、カルテに書かれた動物病院又は近くの動物病院で受診させる
  4. 費用の立替え受診費用は事業者が立て替える。立替えは1回の事故につき一定額を上限とし、超える見込みのときは飼い主又は緊急連絡先と協議する
  5. 記録と報告経過を記録して報告する。交通事故などでは、動物・スタッフ・飼い主の救護と並行して警察などに連絡する

搬送の交通費や、緊急に買ったフードなどの費用も、立替金として請求できることを料金の条に書いておきます。立替金の支払期限も決めておきます。業務委託のスタッフが現場で立て替えた場合の精算と上限も、スタッフとの契約で同じ額にしておくと、現場の判断がぶれません。

依頼者の原案で見かけるのが、「緊急時の治療費・搬送費はすべて利用者負担」「獣医師の治療について利用者は異議を申し立てられない」という書き方です。事業者の落ち度で生じたけがの治療費まで利用者の負担と読める点と、異議を封じる点は、消費者契約法10条の問題になります。費用の負担は「事業者の責めに帰すべき事由による場合を除き」と限定し、異議の封じ込めは削ります。

手術・延命・安楽死の意思を、事前に確かめる

高額な手術の同意を誰がするかは、事故のあとで最も揉める論点です。事務所が手がけた規約では、事前打合せで次の事項について飼い主の意思を確認し、カルテに記録する条を新たに設けました。

  • かかりつけの動物病院と、緊急時に希望する病院
  • 立替えの上限額
  • 手術・全身麻酔・輸血が必要な処置への意向
  • 延命措置への意向
  • 飼い主と緊急連絡先のどちらとも連絡がつかない場合に、獣医師の判断に委ねてよい範囲

安楽死については、飼い主又はその家族の同意なく事業者が同意することはない、と書きます。ただし、獣医師が生命の維持ができず著しい苦痛が続いていると判断し、あらゆる手段を尽くしても飼い主・緊急連絡先と連絡がつかないときは、獣医師の判断に従う、という例外を置きます。カルテに記録がない場合は、獣医師の判断に従い、生命の維持に必要な最小限度の処置を受けさせる、としておきます。事前に「どこまで任せるか」を決めておくことは、飼い主の安心とシッターの身の守りの両方になります。

亡くなったとき・災害のとき

世話の期間中に動物が亡くなった場合は、直ちに知らせること、飼い主の指示があるまで遺体を適切に保管すること、同意なく火葬などの処置をしないこと、亡くなるまでの経緯を記録して報告することを書きます。依頼者の原案に「損害賠償及び慰謝料の請求には一切応じられません」という一文がありましたが、突然の死は飼い主の感情が最も揺れる場面で、こうした冷たい一文が紛争の火種になります。法律上の責任がない場合でも見舞金を支払える枠を置くことを検討します(賠償と保険)。

地震などの災害が起きたときは、動物・スタッフ・飼い主の安全を最優先とし、家が安全なら世話を続け、けががあれば動物病院へ運ぶこと、飼い主・緊急連絡先と連絡がつかない場合は、事業者が動物を保護するか、自治体の避難の指導に従って動物愛護センターやかかりつけ病院に保護を依頼すること、その費用は立て替えて後日請求することを書きます。スタッフに対しては、自分の生命・身体に危険が及ぶおそれがあるときは業務を中断できる、と別の書類で定めておき、二つの書類を並べて読んで食い違いがないかを確かめます。

脱走:保険も免責も効かない、最も危ない類型

玄関を開けた瞬間の飛び出し、散歩中のリードやハーネスの外れ。脱走は、ペットシッターで最も典型的な事故です。事務所がレビューした規約には「脱走・事故・発病・けが・死亡を含めたすべての事態は、故意又は重大な過失以外は免責」と書かれていましたが、故意・重大な過失を除いて、預かった動物の死傷について軽い過失の責任まで全部免除する条項は、消費者契約法10条により無効とされるおそれがあります。しかも、加入していた保険は脱走に起因する事故を対象外としていました。保険は出ず、免責も効かない。法的な責任だけが残る領域です。

動物愛護管理法も、動物の所有者又は占有者に、動物の逸走を防止するために必要な措置を講ずるよう努めることを求めています(同法7条3項)。脱走の防止は、法の要請でもあります。

咬みつき事故と民法718条

動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負い、相当の注意をもって管理したときは責任を免れます(民法718条1項)。占有者に代わって動物を管理する者も、同じ責任を負います(同条2項)。散歩中に預かった犬が通行人や他の犬に咬みついた場合、シッター(とその使用者としての事業者)が責任を問われ得ます。

飼い主や同居人が咬まれた場合のように、人の身体の損害について賠償の上限を置くことは避けます。上限ではなく、①飼い主の咬傷歴・攻撃性の告知の義務、②事業者の管理の方法の記録(「相当の注意」を尽くしたことの立証の準備)、③過失相殺、で対応します。スタッフが咬まれた場合の治療費などは、飼い主の責任の条に「預かった動物の咬傷その他の加害行為」を入れておくことで、飼い主に請求できる形にします。咬癖を告げてもらっていたかどうかが分かれ目になります。

「時間外の事故」は、時的な範囲の定義で

「契約の時間外に起きた事故には一切関与しない」と書いた規約があります。考え方は理解できますが、退室時の施錠を忘れたために退室後に脱走した、という事故は、時間外に結果が出ただけで、原因は世話の中の落ち度です。このような事故まで時間外を理由に免れることはできません。免責として書くより、「世話の期間は、スタッフが入室した時に始まり、施錠・開口部・火の元と水道・動物の状態を確認して退室した時に終わる。期間外の事故は責任を負わない。ただし、当社の世話に起因する場合はこの限りでない」と、期間を定義する形にします。

ご相談の場面から:事故・病気についてのご相談

旅行中で連絡がつかない飼い主の犬に、高額な手術が必要と言われました。

事前打合せで手術・麻酔・輸血・延命措置への意向と立替えの上限を確認し、カルテに残しておくことが何よりの備えです。記録がなければ、生命の維持に必要な最小限の処置にとどめる、と規約に書いておきます。今後の契約から、この確認をカルテの様式に組み込むことをお勧めします。

散歩中に預かった犬が他の犬に咬みついてしまいました。

動物を管理していた者として、シッターと事業者が責任を問われ得ます。咬癖を事前に告げてもらっていたか、リードの扱いなど管理の方法が適切だったかが分かれ目です。まず相手方への連絡と事実の記録、保険会社への報告を行い、飼い主にも経過を伝えます。

狂犬病予防法の「管理する者」と散歩代行

犬の所有者は、犬の登録を受けて鑑札を犬に着けておかなければならず(狂犬病予防法4条)、狂犬病の予防注射を毎年1回受けさせ、注射済票を犬に着けておかなければなりません(同法5条)。注目したいのは、予防注射の条で「犬の所有者」に括弧書きが付き、「所有者以外の者が管理する場合には、その者」を含むと定められていることです(同条1項)。同条2項・3項(注射済票)以下の規定でも同じ意味で使われます。それより前にある4条の鑑札の装着の義務(同条3項)は、文言上は所有者の義務です。

散歩代行やお泊りで犬を預かっている間は、シッターがその犬を管理していることになります。注射済票を着けずに連れ出すことが、飼い主の問題にとどまらず、管理する側の問題にもなり得ると読めます。規約で、狂犬病の予防注射と鑑札・注射済票の装着を申込みの条件にし、散歩代行の特則で装着を確認してから連れ出すと定めているのは、違法な状態の犬を連れ出さないための自衛でもあります。

飼い主の責任の条を置く

事業者の責任の条を丁寧に整えても、飼い主の側の責任の定めがないと、スタッフが咬まれた場合や、飼い主の家の設備が原因でけがをした場合に、何を根拠に請求するのかが曖昧になります。事務所が手がけた規約では、次のような条を置きました。

第◯条(お客様の責任)
1

お客様は、次の各号のいずれかにより、当社、スタッフ、代行者、第三者又は他の動物に損害を与えたときは、その損害を賠償するものとします。(1)表明した事項が真実でなく、又は告知が不正確であったこと(2)予防接種その他の予防措置を講じていなかったこと、又は感染症にかかっていることを告げなかったこと(3)お預かりペットの咬傷その他の加害行為(4)お客様宅の設備又は管理の不備(5)その他お客様の責めに帰すべき事由

2

前項第3号の損害について、当社又はスタッフに管理上の過失があるときは、その割合に応じて賠償の額を定めるものとします。

2項は、スタッフの側の落ち度を考慮する一文です。飼い主の責任だけを一方的に定めると、消費者契約法10条の問題になりかねないので、過失の割合で調整する形にしています。

咬癖を告げてもらっていたのに、スタッフが不用意に手を出して咬まれた場合は、2項の調整が働きます。逆に、咬癖を告げられていなかった場合は、1号と3号の両方が根拠になります。カルテの安全の情報の欄の記載が、ここで決定的な意味を持ちます。

よくあるご質問

ワクチンの接種証明は毎回確認すべきですか?

初回の事前打合せで写しを提出してもらい、有効期限が切れる前に更新分を出してもらう運用にします。例外を認めるときは書面で申し出てもらい、その事情に起因する損害の扱いを決めておきます。

持病を隠されていた場合、責任を負わずに済みますか?

事業者に落ち度がなければ責任は生じません。規約には上限ではなく、飼い主の告知の義務と、違反した場合の効果(中止・解除、損害の賠償)を書くのが正攻法です。

緊急時の治療費は、誰が負担しますか?

事業者の責めに帰すべき事由による場合を除き、飼い主の負担とするのが一般的です。事業者が立て替える場合は、1回あたりの上限と、超える場合の協議、立替金の支払期限を決めておきます。

散歩中に預かった犬が人に咬みついたら、誰の責任ですか?

動物を管理していた者として、シッターと事業者が民法718条・715条で責任を問われ得ます。咬癖の告知の有無と、管理の方法の記録が分かれ目です。人の身体の損害について賠償の上限は置かないのが基本です。

帰った後に猫が脱走していました。責任はありますか?

退室時の施錠や開口部の確認に落ち度があれば、退室後に起きた脱走でも責任を問われ得ます。退室時の確認事項を規約に列挙し、写真などで記録する運用が有効です。

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本ページは一般的な情報提供です。登録の手続や基準の運用は、事業所の所在地の都道府県・指定都市によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたペットシッター・ペットのお世話サービスの利用規約、申込書、同意書、スタッフとの業務委託契約書などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / 環境省 動物の愛護と適切な管理 / 消費者庁 / 特定商取引法ガイド

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