同意書とカルテの作り方

カルテは世話の方法を残すだけでなく、事故のときに「何を約束していたか」を示す証拠になります。同意書は免責ではなく、説明と方法への同意として作ります。

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安全の情報(咬み癖・逃げ癖・持病)は、世話の内容とは別の欄に書きます。

このページの要点

  • カルテには、給餌・投薬・トイレ・散歩・安全の情報・獣医療の意思・緊急連絡先・使ってよい設備を記録する。
  • 事前打合せの約束は、カルテに記録された限度で効力を持つと規約に書く。
  • 手術・延命・安楽死の意向と立替えの上限は、事前に確認して記録する。
  • 写真は、報告のための撮影と、SNS・広告への掲載とで、二段階に分けて同意を得る。

規約・申込書とは別に、カルテと同意書を用意する

ペットシッターやペットホテルの書類は、全利用者に共通する利用規約、利用者ごとの申込書のほかに、事前打合せ(カウンセリング)の内容を記録するカルテと、個別の事項について同意を得る同意書で組み立てます。カルテは、動物ごとの世話の方法を残すだけでなく、事故のときに「何を約束していたか」を示す証拠になります。このページでは、カルテと同意書に何を書くかを整理します。

カルテに記録する事項

カルテの記録事項(例)
  • 給餌・給水フードの種類・量・回数・器・置き場所・順番、残したときの扱い、水の量と器
  • 投薬薬剤名・量・時機・与え方(獣医師の指示に基づく経口薬・点眼・外用薬の範囲)
  • トイレ用具・処理の方法・砂やシートの交換の基準・廃棄の場所
  • 自動給餌器・給水器機種・設定・補充の方法
  • 遊びと距離好む遊び、避けるべき行為、距離の取り方
  • 室内の環境空調・換気・照明・施錠、立ち入ってよい場所
  • 散歩経路・時間、リードとハーネスの種類と付け方、他の動物や人への反応、拾い食い、逃げたときの連絡先
  • 安全の情報咬み癖・逃げ癖・持病・感染症(世話の内容とは別の欄に書く)
  • 獣医療の意思かかりつけ病院、緊急時に希望する病院、立替えの上限、手術・麻酔・輸血・延命措置への意向
  • 使用を認める設備(お泊り)台所・浴室・洗面・空調など、使ってよい設備のチェック欄
  • 緊急連絡先氏名・続柄・電話番号、本人の了解の有無

安全の情報(咬み癖など)は、世話の内容の欄とは別の欄に書きます。世話の内容の欄に書ける事項を限定していると、安全の情報まで書けないように読めてしまうことがあるからです。

規約には「事前打合せで定めた事項は、カルテなどの書面・電磁的記録に記録された限度で効力を持つ」と書いておきます。打合せでの「何かあったら連絡しますね」程度の会話が、後で「約束した」と主張されるのを防ぐためです。また、カルテの記載が規約より事業者の責任を軽くする場合は規約が優先する、という片面的な優先の条を置き、現場でカルテに書いた一言で責任の設計が崩れないようにします(利用規約)。

業務委託のスタッフに渡すカルテ

業務委託のスタッフに渡すカルテには、「飼い主が指定した事項」だけを書く運用にします。事業者が独自に作業の手順をカルテに書き込むと、スタッフへの遂行の方法の指示になり、業務委託の性質が弱まるからです。事務所が手がけた仕様書では、「方法・順序・経路その他の遂行の態様は、飼い主が現に指定したものに限りカルテに記載する。指定がないときは受託者が定める」と書きました(スタッフとの業務委託契約書)。

緊急時の対応と獣医療の意思の同意

飼い主が旅行中で連絡がつかない場面で、高額な手術が必要になったときに誰が判断するかは、事故のあとで最も揉める論点です。カルテの「獣医療の意思」の欄とあわせて、緊急時の対応について同意を得ておきます。

緊急時の対応についての同意(骨子)
1

異常を認めたときは、飼い主、緊急連絡先の順に連絡し、連絡がつかないときは、カルテに記載の動物病院又は近くの動物病院で受診させることに同意します。

2

受診の費用は事業者が立て替え、立替えは1回の事故につき○円を上限とし、これを超える見込みのときは飼い主又は緊急連絡先と協議します。

3

手術・全身麻酔・輸血・延命措置については、カルテに記録した意向に従います。記録がない場合は、獣医師の判断に従い、生命の維持に必要な最小限度の処置を受けさせます。

4

事業者は、飼い主又はその家族の同意なく安楽死に同意しません。ただし、獣医師が生命の維持が不可能で著しい苦痛が継続していると判断し、あらゆる手段を尽くしても飼い主・緊急連絡先と連絡がつかないときは、獣医師の判断に従います。

写真・SNS掲載の同意は二段階で

世話の様子を写真や動画で報告することは、ペットシッターの標準的な運用です。ところが、事務所がレビューした規約には、写真の撮影、報告の内容、SNSや広告への掲載についての定めが一切ありませんでした。同意は二段階に分けて取ります。

写真の同意の二段階
段階目的同意の取り方
第1段階カルテの作成、世話の記録、報告のための撮影事前打合せで目的・対象・利用の範囲を説明して確認を得る。その目的の範囲でのみ使う
第2段階Webサイト・SNS・広告への掲載など目的外の利用媒体と範囲を示して別に同意を得る。いつでも撤回でき、撤回されたら速やかに掲載をやめる

すでにWebサイトやSNSに載せている写真がある場合は、改めて第2段階の同意を取る手当てが必要です。撮影・掲載のときは、間取り・表札・郵便物・位置情報など、住居の所在や住んでいる人を特定できる情報が写らないようにします(写真・個人情報と留守の情報)。

トリミングを一緒に行う場合の同意

トリミングを併せて行う事業者は、仕上がりと施術中の事故について、事前の説明と同意を書面にしておきます。「仕上がりに満足いただけない場合も返金には一切応じない」「お店を出た後の問題は保証できない」と書いた原案がありましたが、トリミングは「この仕上がりにする」約束に近く、仕上がりの不備はお直しや代金の減額の対象になり得ます。一律に「返金しない」と書くより、お直しの申出の期限(当日・翌日など)と方法を書く方が、有効で、利用者にも分かりやすくなります。

爪切りのときの軽い出血やバリカン負けのように、通常の施術に伴って起こり得る軽い症状は、事前に説明して同意を得ておきます。ただし、その説明と、過失によるけがの責任とは分けて書きます。過失によるけがまで免責すると、条項が無効とされるおそれがあるからです。高齢の動物や子犬・子猫、妊娠中・発情期の動物の受入れの条件も、具体的に書いておくと有効です。

ご相談の場面から:同意書・カルテのご相談

カルテの様式を作り直したいのですが、最低限どの欄が必要ですか?

世話の内容(給餌・投薬・トイレ・散歩)、安全の情報(咬み癖・逃げ癖・持病)、獣医療の意思(病院・立替えの上限・手術や延命の意向)、緊急連絡先と本人の了解の有無、お泊りで使ってよい設備の欄は、最低限設けることをお勧めします。安全の情報は世話の内容とは別の欄にします。

SNSにかわいい写真を載せたいのですが、同意書がありません。

報告のための撮影とは別に、媒体と範囲を示した同意を取り直してから掲載します。撤回の方法も示し、間取りや表札が写らないように注意します。世話の最中にリアルタイムで投稿すると、飼い主の不在を知らせることになるので避けます。

申込書の確認のチェック欄

カルテが「世話の方法」を残す書類なら、申込書の末尾のチェック欄は「契約の前提」を飼い主に確認してもらう場所です。事務所が手がけた申込書では、次の五つのチェック欄を設けました。

申込書の確認のチェック欄(例)
  • 規約の交付と同意利用規約とプライバシーポリシーの交付を受け、内容に同意したこと
  • 告知の事項飼育者であること、健康状態・持病・咬傷歴などを正確に告げたこと、感染症にかかっていないこと、予防接種を受けていること
  • 外国にある第三者への提供海外の決済代行事業者・Webサイト作成サービスへの情報の提供に同意したこと
  • 緊急連絡先の本人の了解緊急連絡先として届け出た本人に、情報を提供することと利用の目的を知らせ、同意を得たこと
  • 申込書の交付申込書(控え)の交付を受けたこと

五つ目の欄は、飼い主の家での契約が訪問販売の適用除外に当たらなかった場合に備えて、書面を交付した事実を残すためのものです。

獣医師の診断書を、賠償の要件にしない

同意書や申込書に「賠償を受けるには、当店の過失を証明する獣医師の診断書を提出していただきます」と書いた原案がありました。しかし、獣医師が証明できるのは、けがや病気の医学的な所見です。シッターの注意が足りなかったかどうかは、獣医師が証明できる事柄ではありません。証明できない書面を支払の要件にすると、事実上、賠償を受けられない仕組みになり、消費者契約法10条の問題になります。診断書や領収書は「損害の額を算定するための資料」として提出を求める形に改め、提出がないことだけを理由に賠償を拒まない、と書きます(賠償と保険)。

用具・用品と、その費用の欄

世話に使う用具や用品を誰が用意するかも、カルテで決めておく事項です。事務所が手がけた規約では、原則として飼い主の家のものを使うこと、事業者が清掃用品を持参することがあること、フードやトイレ用品の用意がない場合に備えて事業者が用意することがあり、その費用は立替金として請求すること、手指の消毒を行い用品を使い回さないこと、電気・水道・ガスは世話に必要な範囲で使うことを書きました。カルテには、用品の置き場所と、切れたときに買い足してよいか(上限額)の欄を設けます。

業務委託のスタッフとの関係では、衛生用品や撮影の機器はスタッフの負担とし、事業者が「支給」する形にしない設計にしました。利用規約で「当社が持参する」と書いていても、実際には委託のスタッフが自分の用品を使う、という場合に、二つの書類の書き方を食い違わせないよう整えておきます。

2回目以降の申込みと、その記録

ペットシッターは、初回に事前打合せとカルテの作成を済ませると、2回目以降は電話・メール・メッセージで申込みを受けることが多くなります。このとき、どの時点で契約が成立するのか、カルテの内容は前回のままでよいのかを決めておかないと、「前回と同じ」と思っていた内容が食い違う原因になります。事務所が手がけた規約では、2回目以降の申込みも事業者が承諾した時に成立すること、申込みのたびに提供日・時間・頭数・料金を定めること、カルテの内容に変更(体調・薬・用品の置き場所・鍵の受渡しなど)があれば申込みのときに知らせてもらうことを書きました。

申込みの方法を列挙するときに、「その他当社所定の方法」という包括的な文言を加えると、Webの問合せフォームまで申込みの方法に含まれると読める余地が生まれます。問合せフォームを訪問の依頼の窓口に限っているなら、2回目以降の申込みの方法からも包括的な文言を外し、受け付ける方法を具体的に書きます(特商法の表記と申込みの画面)。

よくあるご質問

ペットシッターのカルテには何を書けばよいですか?

給餌・給水、投薬、トイレ、散歩の方法、遊びと避ける行為、室内の環境、安全の情報(咬み癖・逃げ癖・持病)、獣医療の意思(病院・立替えの上限・手術や延命の意向)、緊急連絡先、お泊りで使ってよい設備を書きます。

緊急時の手術について、事前に同意をもらうべきですか?

飼い主と連絡がつかない場面に備えて、手術・麻酔・輸血・延命措置への意向と立替えの上限を事前打合せで確認し、カルテに記録しておきます。記録がない場合は、生命の維持に必要な最小限の処置にとどめる、と規約に書きます。

写真をSNSに載せるには、どんな同意が必要ですか?

報告のための撮影の同意とは別に、媒体と範囲を示して掲載の同意を取ります。いつでも撤回でき、撤回されたら速やかに掲載をやめることも示します。

トリミングの仕上がりに不満を言われたら、返金しなければなりませんか?

一律に「返金しない」と書くより、お直しの申出の期限と方法を書いておく方が有効です。通常の施術に伴う軽い症状は事前に説明して同意を得ておき、過失によるけがの責任とは分けて書きます。

同意書に「事故の責任は負いません」と書いてもよいですか?

同意書でも、消費者契約法で無効になる免責は無効です。同意書は、説明を受けたことと方法への同意として作り、責任の範囲は規約の責任の条で定めます。

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